更年期のつらい症状を和らげる方法として、HRT(ホルモン補充療法)を検討する方が増えています。一方で、「乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、血液検査が必要と知って不安になった」そんな声も少なくありません。
「そこまで検査が必要なの?」
そんな疑問に、この記事ではお答えします。
秦 麻理 先生
日本産婦人科学会、生殖医療学会、日本産婦人科内視鏡学会
「女性のトータルサポートが出来るよう市中病院やクリニックで幅広く診療に携わっております。個々の患者様のご相談を親身になってお伺いし、ベストな治療法を提案させていただければと思います。受診するのが億劫だとお考えの方、まずはお悩みだけでもお気軽にご相談ください」
なぜ、HRTの処方には検診が必要なのでしょうか?
女性ホルモンは、体の一部だけでなく、全身に作用するからです。HRTで補う女性ホルモンは、症状の原因となっている脳や自律神経だけでなく、
- 子宮
- 乳腺
- 血管
- 肝臓
など、体のさまざまな場所に作用します。そのため、もともと
- 子宮や乳房に病変がある
- 血栓ができやすい体質がある
- 肝機能に問題がある
といった場合には、HRTが体に負担をかけてしまう可能性があります。検診は、こうしたリスクがないかを事前に確認し、より安全に治療を行うために行います。
「更年期症状」と「病気」は、見分けがつきにくい
更年期の症状と、婦人科の病気の初期症状はとてもよく似ています。
- だるさ(甲状腺の病気などが隠れている可能性もあります)
- 気分の落ち込み
- 不正出血(子宮体がんなどの可能性も)
これらが、すべて更年期によるものとは限りません。特に「不正出血」がある場合は、ホルモンバランスの乱れによるものなのか、子宮の病気によるものなのか、治療を始める前にしっかり見極める必要があります。検診を行うことで、「他の病気が隠れていないか」「今、HRTを行ってよい状態か」を医学的に確認することができるのです。
検診は、HRTを止めるためのものではありません
誤解されやすいのですが、検診は「問題を見つけて治療を止めるため」のものではありません。本来の目的は、以下の2点です。
- 安心してHRTを続けられるかを確認する
- 今の治療方針(薬の種類や量)が合っているかを確認する
検査結果によっては、よりリスクの低い「経皮薬(貼り薬・塗り薬)」に変更したり、投与量を調整したりすることで、治療を継続できるケースも多くあります。
「今すぐ全部の検診をやらないといけないの?」
ここが、多くの方が迷われるポイントです。 もちろん、治療開始前に全ての検査を終えているのが理想です。 しかし、MYLILYでは「つらい症状を我慢させない」ことも医療の大切な役割だと考えています。実はガイドラインにおいて、「過去(6ヶ月〜1年以内)に受けた健診結果」を治療前の評価として用いることが認められています。
そのためMYLILYでは、
- 直近の健康診断の結果をお持ちの方
- 問診(スクリーニング)でリスクが低いと判断された方
に関しては、まず治療をスタートし、「3ヶ月以内」に必要な検診を受けていただく(または過去の結果を提出していただく)という柔軟な運用を行っています。これは、 「つらさを我慢させない」 「でも、安全性はきちんと守る」 という、更年期医療の現実的なバランスを考えた結果です。
検診は、安心して前に進むために
オンライン診療だからといって、安全基準を緩めているわけではありません。 HRTを処方する以上、オンラインでも対面でも、守るべき安全基準は同じです。検診は近隣の医療機関で受け、その結果をオンライン診療で医師が確認することで、通院の負担を減らしながら安全に治療を続けることができます。
検診と聞くと、少し身構えてしまうかもしれません。 でもそれは、これからの治療を、長く安心して続けるための”確認作業”なのです。
医師からのコメント
更年期症状はつらく、日常生活に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。HRT(ホルモン補充療法)は、正しく使えば有効性が高く、多くの方の生活の質を改善できる治療です。一方で、女性ホルモンは子宮や乳腺、血管など全身に作用するため、安全に治療を行うための事前確認(検診)が重要になります。これは「治療を制限するため」ではなく、その方にとって最も安全で適切な治療方法を選ぶためのものです。
検診の結果によっては、
・貼り薬や塗り薬など、よりリスクの低い方法への変更
・ホルモン量の調整
などを行いながら、治療を継続できるケースも多くあります。
また、更年期症状と婦人科疾患の初期症状は似ていることがあり、特に不正出血がある場合は、治療前に確認を行うことが大切です。
つらい症状を我慢する必要はありません。適切な評価とフォローを行いながら、安心してHRTを続けていくことが可能です。
不安なことがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。
本記事は医学ガイドラインに基づき、医師監修のもと作成しています。
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日本産婦人科医会/日本産科婦人科学会 ガイドライン(ホルモン補充療法ガイドライン情報)
https://www.jsog.or.jp/medical/410/
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日本女性医学会「HRTガイドブック」
https://www.jmwh.jp/n-hrt_book.html

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